境界線
02



「これはもう使いもんにならないわ」

ぐしゃぐしゃになった資料をコピー機からつまみ出した。何の文字が書かれていたのかほぼわからない。

高橋はやはり潤んだ瞳と垂れた眉を顔にのせて立ちすくんでいた。

「どうする?」
「どうすればいいんでしょうか」

首が折れたように俯く高橋を見ていると、私の感情からは怒りがすっかり消え去ってしまった。

まぁ、一番つらいのは上司である私なんだけど。

この言葉は敢えて言わないことにした。
言ったらきっと高橋は辞表でも出してしまいそうだ。

「いいよ。そんな落ち込まないで」

優しくなった瞬間に高橋は明るい顔で私を見る。わかりやすい男だ。

「いや、でも元気にもならないで」

私の発言で再び肩を落とした高橋のその肩をディスクケースで軽く叩いた。

「この中に資料のデータ、全部入ってるから。もう一回コピーして」

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