境界線
02
◇
「これはもう使いもんにならないわ」
ぐしゃぐしゃになった資料をコピー機からつまみ出した。何の文字が書かれていたのかほぼわからない。
高橋はやはり潤んだ瞳と垂れた眉を顔にのせて立ちすくんでいた。
「どうする?」
「どうすればいいんでしょうか」
首が折れたように俯く高橋を見ていると、私の感情からは怒りがすっかり消え去ってしまった。
まぁ、一番つらいのは上司である私なんだけど。
この言葉は敢えて言わないことにした。
言ったらきっと高橋は辞表でも出してしまいそうだ。
「いいよ。そんな落ち込まないで」
優しくなった瞬間に高橋は明るい顔で私を見る。わかりやすい男だ。
「いや、でも元気にもならないで」
私の発言で再び肩を落とした高橋のその肩をディスクケースで軽く叩いた。
「この中に資料のデータ、全部入ってるから。もう一回コピーして」