境界線
「ぶ、ぶちょぉ〜」
涙を流しながら私の手を握る後輩の頭を撫でてやった。私は何て優しいんだろう。いや、お人よしなだけだろうか。ドジな後輩のために事前にデータを保存しておいてあげるなんて。
高橋はまだ入社して一年も経たない、新人中の新人である。面接での溢れ出す笑顔と愛嬌によって内定を得たらしい。だが仕事はといえば、この通り失敗続きだ。おかげで部長の私が上層部に叱られる始末だ。
迷惑といえば確かに迷惑だ。
だがそれでも何の措置もとらず、高橋の面倒を見ている私は、やはりただのお人よしである。
「やっぱり部長はすごいです」
パソコンからデータを転送し、コピー機を操作する高橋が自信満々に言った。
「たぶん俺、他の部署ならとっくにクビになってますよ」
機会音がうねり、コピー機から資料が出てくる。だが資料は紙の中に収まっていない。
「あ、あれ」
「ちょっと勘弁してよ」