紅梅サドン
タクシーが教会の近くに着くと、大きな門が見える。

僕等は樹木に隠れて門の外から中を覗いた。

雪子は既に力尽きて、ルノーにおんぶされている。


雪子を連れてタクシーに戻る様、僕はルノーに言う。


日陰とは言え、大量の汗が流れ落ちる。

しかし、僕は驚くくらい冷静だった。

真澄の真実を知ったあの夜に、気の遠くなるくらい泣いたせいだろうかーー。

僕は準備をする様に静かに息を整えていた。

教会から中庭に続く大きな扉が見える。

取っ手には赤いバラのブーケが付いている。

真澄はあのドアから出てくるのだろう。


しばらく経って、真上に見える教会の大きな金色の鐘の音が鳴り響く。

太陽が一瞬、僕の瞳を遮る様に反射してキラリと光る。



眩しい閃光の様な光と共に扉が開いた。


僕は約二年振りに真澄の姿を見た。


白いウエディングを身に付けた真澄。

背の高いイギリス人の隣で、幸せそうに笑う真澄。

参列した人々が、中庭に続く階段を降りて来る二人に向かって、花ビラを投げて祝福している。


真澄は、はにかんでイギリス人の顔を照れた様に見つめた。



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