紅梅サドン
ルノーはそう言うとワインを片手に、僕にクルリと背中を向けた。


その背中は、さっき次郎が僕に見せた小さな背中によく似ていた。

僕達はただ互いに握手をして、またワインを飲み交わした。



それから二人で何時間話し、そして笑っただろう。


僕等は計七本のワインを開けて、ゴロリと寝転がった。


酔った体がジンジンと音を立てる。

電気を消して天井を二人で見つめた。


「ーーお前、近いんだからさ、また飲みに来いよ。」

「秋ジイ、何だかんだ言って寂しいんだろ?俺らがいなくなるの。」

「次郎もニヤニヤしながら、同じ事言ってやがった。

お前ら似たもの兄弟だな。」


僕は静かに目を閉じた。

隣の部屋から聞こえる次郎と雪子の寝息が、ゆっくりと優しく僕を包んだ。



「ーー雪子、九州の会社に就職したんだよ。」


ルノーがつぶやく。そして、そのまま寝息を立てた。


九州ーー。

雪子が日曜日、九州に行ってしまう。


僕は目を閉じても、いつまでも眠る事が出来ずにいた。


雪子の長いまつげが頭を離れない。

小さく笑う雪子の白い頬が目に浮かぶ。

恋愛感情なのか分からない。

ただそのルノーの言葉を聞いた時、一つだけ分かった事がある。


寂しいーー。

そんな心のスイッチが、僕の心をずっ支配していた。



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