紅梅サドン
僕はその場に立ち尽くした。

雪子が靴を履き終えて、玄関を開ける。

そして明るい太陽を取り込んだ玄関で、クルリと振り返り僕を見つめた。


「私、真澄さんの気持ち分かります。

秋さんが何も言わなかったのは、夢を追いかける真澄さんの“味方”でいたかったからですよね?

でも大好きな人の味方でいるのは、自分にとっては、凄く苦しい時もありますよねーー。

秋さんは真澄さんを好きな分だけ、何も言えなかっただけです。



だから分かるんですーー。

この家を出て行く時の、真澄さんの最後の言葉。


私も秋さんのーー、


『そういう所が好きなの』ーー。」

雪子はそう微笑んで、そのまま玄関を出て行った。

僕は体が動かない。あの日と同じだ。

真澄に何も言葉を言えなかったあの日。


僕は気づくと、その場にあったサンダルをつっかけて、慌てて玄関を出ていた。


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