キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
どうも話は、ラグナードやキリたちにとっては予想もしていなかった方向に流れ始めた。


「ほう、【黒のレイヴン】の名を知っていたか」

イルムガンドルは眉を上げて、黒い服に身を包んだキリを見て、

「魔法使いの間では【渡鴉】の話は有名らしいな」

と言った。


「それで、この手紙にはなんと返事を……?」

ラグナードは執務机の国王に視線を戻した。

「王立議会はこの手紙について、一ヶ月に及ぶ議論を重ねたが──」

イルムガンドルは、
ラグナードがパイロープに向かう前にキリを王宮に連れ帰れば、そうなると言っていたとおりの展開があったことを語って、

「相手の要求を飲んで、助力を要請することに決めた。それがつい数日前のことだ」

と言った。


「こんな怪文書の申し出を受けたのですか!?」

ラグナードは声を上げた。

「この手紙の差出人こそが、パイロープの異変を仕組んだ張本人だとは考えなかったのですか!?」

パイロープの真実を言い当てた黒い手紙の文言を目にして、すぐさま彼の頭をよぎったのはその可能性だった。


彼らのほかに、パイロープで何が起きていたのかを正確に把握している者がいたとなれば、ほかに考えられなかった。

ラグナードにとっては聞いたことのない名前だったが、この【渡鴉】という者こそが


ジークフリートをパイロープの地に落とし、

彼の怒りをガルナティスに向けさせて、

罪のない民を虐殺させた黒幕なのではないだろうか。


「待て。異変を『仕組んだ』とは、どういう意味だ?」

イルムガンドルが聞きとがめて、


「黒のレイヴンは、たぶんそんなことしないんじゃないかな」

キリがのんきに横で楽観的な意見を言った。


「なぜそう言い切れるんだ?」

ラグナードは顔をしかめる。

「とつぜんこんな手紙を国王宛に出すなど、あやしすぎるだろう。だいたい──」

ラグナードはキリが口にしたその名前を思いうかべて、嫌悪をあらわにした。

「『黒の』レイヴンなどと──その者は、エスメラルダの魔法使いなんじゃないか」



黒のレイヴンという名は知らなくとも、

魔法教国エスメラルダが、
色に関係した二つ名を魔法使いにつけることは、ラグナードも知っていた。



「ああ──」

キリが、ラグナードのかんちがいに気づいて

「違うよ」

と言った。

「エスメラルダは『黒』とか『白』とか、色だけの名前を直接つけることはしないよ。
【黒のレイヴン】は、エスメラルダにも──ほかのどの国にも属していない、在野の旅の魔法使いだよ」

「旅の魔法使い……」
< 206 / 263 >

この作品をシェア

pagetop