キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「渡鴉には悪いが、一方的なこの手紙ではそれを説明することもできぬ。
渡鴉が杖を受け取りに来たら、この城の中を好きに探して見つかれば持ち帰るもよし、希望があれば他の褒美をとらせるつもりでいた。
──とは言え、不誠実な対応になることには変わりない。
私も正直、心苦しい気がしていたが……もはやその心配も不要だな」

晴れやかな顔で国王が言って、

「ガルナティスのために尽力してくれたとのことであれば、この者たちにもなにか褒美をとらせよう」

「いえ、彼らの処遇はこの俺にお任せください。
すでに所望を聞いておりますので」

と、ラグナードもまた晴れやかな顔でそう申し出て、イルムガンドルが「よかろう」とうなずいた。


晴れ晴れとした姉弟を尻目に、キリはどんよりと浮かない顔で肩を落とし、

そして黒い手紙を横からのぞきこんでいたジークフリートもまた、「そうはいかねえようだぞ」と、無表情なままむずかしい声音で言った。


「この契約書に従うならば──渡鴉という者が今ここに現れたならば、契約に従って杖を譲渡する義務がある」


何を言い出すのかと、イルムガンドルとラグナードとキリがジークフリートを見た。


「この契約書には『パイロープから異変が取り除かれたあかつきには報酬を受け取りにいく』と書いてある。
まさに今は、この条件が満たされた状態じゃねーか」

「それは渡鴉とやらではなく、俺たちが……」

「そんなことはこの契約書には書いてねえ」


ジークフリートはそう言って、とんでもない話を続けた。


「この契約書の巧妙な点はな、渡鴉という者自身が異変を解決する必要性がゼロになっているということだ。

確かに手を貸すとは書いてあるが、肝心の契約内容は、文面どおりならば『誰が』異変を取り除こうと、『パイロープから異変が取り除かれたあかつきには』契約が達成されたことになるように書かれている。

つまり、他の者が異変を取り除いた場合でも、必ず杖を渡鴉なる者に渡さなければならなくなるんだよ。ひっかけだな」


「詐欺じゃないか……!」


似たような詐欺まがいの方法でキリをはめようとした己のことは完全に棚に上げて、ラグナードはがくぜんとうめいて、同じようにがくぜんとしている姉をふり向いた。


「こんなうかつな契約書にサインを!? 宮廷魔術師どもは、誰もこの契約書の問題点を指摘しなかったのですか!?」

「いや……数日前の時点でその問題点を指摘できる者などいようはずもない」


イルムガンドルは苦りきった様子で首を振った。


「天の人を何とかできるという者が他にいるなどと、誰一人考えるわけがなかったからな。
自ら殺してみせると公言した渡鴉以外に、パイロープの異変を取り除くことが可能な者がいるとは思えなかった。
それならば、この文面は何の問題もない」
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