キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
ラグナードは内心あせった。

黒い手紙に対して、この条件を飲むと王立議会が決定し、国王イルムガンドルが署名したということは──


──つまり、

ヴェズルングの杖は王国に確実に存在し、

国王はパイロープを奪還した報償として杖を他人に譲渡することをいとわないということを意味していた。



ラグナードは王家の秘密に関わる話だからと理由をつけてキリたちを遠ざけた上で、杖の在処についてこっそりと聞き出し、キリの目に入らぬ場所に隠してしまうつもりでいた。



なにしろ──


あの契約書には、ただちに渡すとは一言も書かれていないのだから。



いずれは渡してやれば、契約違反にはならない。

たとえそれが彼女の死後に、墓の中にたむけてやることであろうとも──。



キリが交わした契約の盲点だった。



もっとも、彼女が自らこの国にいたいと望むようになれば、すぐに渡してやってもかまわないのではあるが。

ラグナードには、時間さえあればキリの心を変える自信はあった。



しかし、

この場で即座に、渡鴉の代わりにとキリに杖を渡されてしまえば、キリをガルナティスに引き留める手だてはなくなる。


「なに、気にせずともよい」

しかしそんな彼の胸中などお構いなしに、

イルムガンドルは身分のないキリに対しても分けへだてなく対話するという、ラグナードにとってはこの場合まことによけいな賢君ぶりを発揮した。


「ヴェズルングの杖は──」


キリの口から手を離して、とっさに耳のほうをふさごうとしたラグナードの前で、女王は、



「記録ではこのカーバンクルス城にあるのは確かだが、千年間、行方が知れぬのだ」



と──


ラグナードにとってはまことに都合が良く、

キリにとっては悲劇的な杖の所在を語った。



「うそお……」

ラグナードが笑みを浮かべ、キリがぼう然とつぶやいた。
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