キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「虐殺めいた陸兵への攻撃より、俺は騎杖同士の戦いのほうが得意だぞ?」
繊細そうな女性的な容姿に似合わずきわめて好戦的に、不敵な表情で言い放つ美しい若者を頭のてっぺんからつま先までながめて、
「ラグナードってば──」
キリは今さらながらに再認識した。
「見た目と中身がぜんぜん違う」
黙って杯をかたむけて優雅に果実酒を飲んでいれば、外見だけは女の子があこがれるような麗しい美貌の王子様なのに、
高貴な生まれを振りかざして横柄な態度をとり、
口を開けば鼻持ちならない言葉ばかりが飛び出し、
さらには、からまれていた娘を助けるためとは言え、嬉々として男たちと対峙したけんかっ早さときている。
麗しさとは無縁だった。
「さっきのも霧の魔法なのか?」
自信の腕前で自らも怪物と一戦交える気満々の剣士様のほうはと言えば、先刻キリが行って見せた魔法が気になっていた。
「テーブルを消したり出したり──あんなマネができるなら、霧を晴らさなくても、パイロープの怪物を丸ごと消してしまうことができそうだが……」
「どうかなあ?」
もっともなラグナードの指摘に、しかしキリはそんな煮え切らない返事をした。
「この世界のものじゃなくて『もともと霧』の魔物を『霧にして消す』ことができるのかは、わかんない」
「霧にして……消す?」
「そう」
キリはこくんとうなずいた。
「霧の魔法っていうのはね、霧を操ることができるほかは、この世界のものを何でも霧にして消しちゃうだけの魔法なの」
ラグナードは、これまで目にしてきた数々のキリの魔法を思い出して、「ばかな」と言った。
「三日の距離を三十歩で移動したり、割れたランプをもとに戻したり、そもそもさっきは消えたテーブルを『出して』いただろう。
あれがすべて、霧にして消すだけの魔法でできることなのか?」
「そうだよ。
『距離』を消滅させて、ランプに起きた『破壊』を消し去って、テーブルが『消えた状態』を霧散させたの。
全部、霧にして消しただけ。
わたしは何一つ生み出していない。
わたしは何一つ生み出せない。
ただこの世のものを霧にして消しちゃうことができるだけの魔法使い」
この世で最強だと言われる霧の属性の魔法使いは、己の力をそのように説明した。
繊細そうな女性的な容姿に似合わずきわめて好戦的に、不敵な表情で言い放つ美しい若者を頭のてっぺんからつま先までながめて、
「ラグナードってば──」
キリは今さらながらに再認識した。
「見た目と中身がぜんぜん違う」
黙って杯をかたむけて優雅に果実酒を飲んでいれば、外見だけは女の子があこがれるような麗しい美貌の王子様なのに、
高貴な生まれを振りかざして横柄な態度をとり、
口を開けば鼻持ちならない言葉ばかりが飛び出し、
さらには、からまれていた娘を助けるためとは言え、嬉々として男たちと対峙したけんかっ早さときている。
麗しさとは無縁だった。
「さっきのも霧の魔法なのか?」
自信の腕前で自らも怪物と一戦交える気満々の剣士様のほうはと言えば、先刻キリが行って見せた魔法が気になっていた。
「テーブルを消したり出したり──あんなマネができるなら、霧を晴らさなくても、パイロープの怪物を丸ごと消してしまうことができそうだが……」
「どうかなあ?」
もっともなラグナードの指摘に、しかしキリはそんな煮え切らない返事をした。
「この世界のものじゃなくて『もともと霧』の魔物を『霧にして消す』ことができるのかは、わかんない」
「霧にして……消す?」
「そう」
キリはこくんとうなずいた。
「霧の魔法っていうのはね、霧を操ることができるほかは、この世界のものを何でも霧にして消しちゃうだけの魔法なの」
ラグナードは、これまで目にしてきた数々のキリの魔法を思い出して、「ばかな」と言った。
「三日の距離を三十歩で移動したり、割れたランプをもとに戻したり、そもそもさっきは消えたテーブルを『出して』いただろう。
あれがすべて、霧にして消すだけの魔法でできることなのか?」
「そうだよ。
『距離』を消滅させて、ランプに起きた『破壊』を消し去って、テーブルが『消えた状態』を霧散させたの。
全部、霧にして消しただけ。
わたしは何一つ生み出していない。
わたしは何一つ生み出せない。
ただこの世のものを霧にして消しちゃうことができるだけの魔法使い」
この世で最強だと言われる霧の属性の魔法使いは、己の力をそのように説明した。