キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「『距離』や『破壊』、『状態』まで、霧にして消しただと……?」

ラグナードはその魔法の力のおよぶ範囲の広さに驚いた。

「つまり、物質だけではなく概念のようなものも消せるということなのか?」

ならば、その気になれば「時間」や「ある現象が起きる確率」なども消してしまうことが可能だということだろうかと思う。

「それは──」

そんな魔法が存在するとは、とあらためて驚愕した。


「それは、俺には『何でも生み出せる』魔法と同じような気がするがな」


「そんなことないよ。ぜんぜん違うよ」

キリはどこかさびしそうに首を振った。


出発前に森の空き地でキリは、青星のアルシャラと戦ったときの様子を、アルシャラが燃やしたり、わたしが「消し飛ばしたり」したと語っていた。

それも、霧の魔法のこの特性のことだったのかとラグナードは思った。


「つまり、殺しに来たアルシャラと戦っておまえが生き残ったのは──」

「アルシャラの炎では、わたしを燃やすことができなかったのが理由の一つ」

キリはラグナードの考えたとおりの答えを口にした。

「魔法の炎も、霧にして全部消しちゃったからね」

「魔法を消すことができる魔法か……!」


千年前、霧のヴェズルングが魔法使いの軍団を蹴散らせた理由がはっきりした。


魔法を消すことのできる魔法使い相手では、どんな魔法使いでも対抗できるわけがない。

霧の魔法使いこそは、まさに魔法使いの国にとって最悪の敵だったということになる。


「ならば、やはり最強だろう。
アルシャラも霧にして消してしまうことができた、ということじゃないか」

「それはムリ」

キリはきっぱりと断言した。

「なぜだ? テーブルを消すのと同じだろう」

「だって、アルシャラはわたしより年上の魔法使いだったんだもん」

ラグナードには意味がわからなかった。

「これは霧の魔法だけじゃなくて、すべての魔法に言えることだけど」

と、キリは言った。


「自分の魔法で直接魔法使いを滅ぼそうと思ったら、最低限、相手を上回る魔力を持ってないとできないの。

自分より強い力を持った魔法使いを、魔法の力で攻撃して殺すことはできない。


もちろん──

たとえば火の魔法使いが自分より強い魔法使いの『家』に火を放って、結果的にその魔法使いが焼け死んだり、

水の魔法使いが池を作り出して、その中に強い魔法使いを突き落として、結果的におぼれ死んだり──

──そういう、間接的な方法でなら、強さは関係なく滅ぼせるんだけど。


それは魔法で相手を滅ぼした、ってことにはならないでしょ。普通の人間が魔法使いを殺すのとおんなじやり方だもん」
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