キリと悪魔の千年回廊 (りお様/イラスト)
「それとアルシャラがおまえよりも年上だったのと、どう関係あるんだ?」

「つまり、私よりもアルシャラのほうが魔力が圧倒的に上だったってこと。
わたしはアルシャラの炎を魔法で消さないと、当たったら焼き殺されちゃうけど──アルシャラはわたしの魔法なんて命中してもなんともないから、防ぐ必要もない」

キリはあははと笑った。


「魔力は、年齢を重ねて修行を積んだ魔法使いほど強くなるからね。

毎日一生懸命修行してるけど、わたし、まだ十七歳だもん。
魔法使いとしては赤ん坊だよ。

大きなものを消したらすぐに疲れて眠たくなっちゃうし、

世界中のほとんどの魔法使いに、わたしの魔法なんて通じないんじゃないかなあ」


年若い霧の魔法使いの思わぬ落とし穴に、ラグナードは絶句した。


どんなにすごい魔法が使えても、それでは最強とはほど遠かった。

思い起こせばキリは、飛行騎杖を飛ばすだけで疲れると言っていた。


最強だと言われてキリが決して首肯しなかったのは、そういうわけだったのだ。


「でも、たぶん千年前の霧のヴェズルングは、百歳以上の齢を重ねた──本当に強い魔力を備えた魔法使いだったんだと思うよ。

もしもそんな魔法使いが、なんでも消せる霧の属性を持っていたら……」


魔法を消し去る霧の魔法は、魔法では防ぐことができず、

たとえ、より強い魔力を持った魔法使いが放ったいかなる魔法も、消し去られて通用しない。


「まちがいなく最強ということだな」


ラグナードはうなずいた。





次の朝、ジャッバールを後にして、喪失のイレムに寄りたがるキリを黙殺し、ラグナードは飛行騎杖で故郷へと急いだ。

上空から視界の左に広がった不気味に真っ白な海が見ることができて、キリは満足したようだった。


やがて、ケノーランドの南側に広がる広大なアルシャラ砂漠を越え、エバーニアとの間にある浮遊岩石地帯にさしかかって、ラグナードは飛行騎杖の速度をやや落とした。
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