始末屋 妖幻堂
「行かされたわけじゃない。おさんに気に入られてさ、見世全般の仕事を任されたから。裏の掃除も頼まれたんだ」

「ほぅ。大した信頼だな」

 千之助は素直に呶々女の手柄を褒めたが、その肩で狐姫が意地悪く鼻を鳴らした。

『ほんとに。片割れは言われたこともまともにできないのにさ。呶々女もこんな屁の役にも立たない男、早々に見限っちまったらどうだい』

「我は旦那に言われたことは、ちゃんとやった。小娘を攫われたのは、九郎助の旦那とおさん狐が邪魔だったのと、九郎助の旦那が我を縛ったからではないか」

 狐姫の嫌味も、牙呪丸は、しれっと流す。
 呶々女に関することでなければ、何を言われようと牙呪丸の心は動かない。

「あ、そうそう。おさんもその逃げた遊女の捕縛についていったんだ。牙呪丸、大丈夫だったかい。怪我してないかい?」

 呶々女が、後ろから牙呪丸を覗き込む。

「おさんは、もっぱら九郎助の旦那の相手をしておったからな。我はただのヒトを薙ぎ倒しておっただけだから、大したことはない」

『そういや、ヒトの死体は転がってなかったね。あんたに思いきり打ち払われたら、ヒトなんて死んじまうだろうに』

 ふと狐姫が、思い出したように口を挟んだ。
 店の中は見る影もなくめちゃくちゃだったが、ヒトの死体はなかった。

 相当な乱闘があったのだろうし、人外とただのヒトの乱闘だ。
 ヒトの相手をしていたのが牙呪丸であれば、あまり何も考えない彼のこと、容赦なく殺していても不思議ではないのに。
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