始末屋 妖幻堂
「清水の油揚げ、買ってやるからよぅ」

 言いながら、千之助は腹這いになり、枕元の煙草盆に煙管を打ち付けた。
 そう言う千之助の腕や頬にも、布があてがわれている。

 千之助の火傷は、火の海に落ちたのだから当然といえば当然だが、狐姫までが火傷をしているのは、あのとき飛び込んできた狐姫が、全身で千之助を包んで庇ったからだ。

 いかな千之助でも、あれほどの炎に包まれれば危ない。
 火に耐性のある妖狐ですら、火傷を負うほどなのだ。

 もっとも直接炎を操れる九郎助狐であれば、どれほどの炎であろうと、屁でもないだろうが。
 生憎狐姫では、桔梗を宙で受け止めるなどということはできない。
 故に、桔梗を九郎助に託したのだ。

 狐姫は、ちらりと千之助を見、視線を部屋の襖へやった。

「ったく、かしましい奴らだね。家に上がり込んだだけじゃなく、旦さんにちょっかい出すなんざ、図々しいにも程があるよ」

 遊女らが転がり込んできてからというもの、狐姫の機嫌は傾きっぱなしだ。
 それもそのはず。
 遊女らはことごとく、千之助にべったりなのだ。
 窮地を救ってくれた千之助に、皆惚れたらしい。

 とりわけ最後まで見捨てず助けられた桔梗は、すっかりのぼせ上がっている。
 いきなり千之助に女が群がって、狐姫の機嫌が良かろうはずがないのだ。
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