始末屋 妖幻堂
「旦さんも、両手に花で嬉しかろうね」

 再び、つんとそっぽを向く。
 千之助は、やれやれ、と笑い、狐姫を後ろから抱きしめた。

「俺が狐姫を、他の女と同じように思ってるわけねぇだろ。世の女百人に好かれたって、お前さん一人に嫌われちゃ、意味がねぇわな」

「・・・・・・」

 何だかんだ言って、千之助には甘い狐姫である。
 大人しく、千之助の胸に背を預ける。
 それに、千之助の言うことに、嘘はないのだ。

「狐姫、有り難うな」

 ぎゅ、と、千之助は狐姫を抱きしめる。
 あのとき狐姫が助けてくれなかったら、千之助は灰になっていたかもしれない。
 一度死んだ身だから、果たしてどうなるかはわからないが、ただでは済まなかっただろう。

「傷を負ってまで助けてくれんのぁ、お前さんだけだ。太夫の肌が、こんなことになるなんざ、許されねぇこったな」

 布の巻かれた腕を撫でる千之助の手に、狐姫は、そっと己の手を重ねた。

「言ったろ。あちきは旦さんがいなくなるなんて、耐えられない。旦さんのためなら、あちきは命だって惜しくないんだ」

「俺っちなんぞに命を懸けるなんざ、勿体ねぇぜ。でも、そうさな。お前さんのためにも、俺っちだって、そう簡単にくたばらねぇようにすらぁ」

 そう言って、千之助は狐姫と布団に転がった。
 お互い力を使いすぎた。
 ここしばらくは、ゆっくりと休養したいものだ。
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