始末屋 妖幻堂
「おそらく佐吉はお前を追って、都まで出てきたんだろう。探し当てるのに二年かかったが、まぁよく捜したもんだ。見つけても、普通はおいそれと手出しできねぇ。廓に売られた娘は、そう簡単に自由にゃならねぇからな」

 小菊は茫然と、千之助を見る。

「無事にお前さんは、小太の手引きもあって、廓から逃れられたわけだが、さてそれからも、また佐吉は捜さないとならねぇ。とりあえず廓からは逃がしたわけだし、佐吉は一旦村に帰ったようだな。本格的にお前さんを捜すために、身の回りの整理をするためか・・・・・・。ああ、実家に帰ったのも、そのためかもな」

 そこで、あの悲劇が起こったわけか。
 小菊を逃がしたのが佐吉だということは、小菊が逃げた後でばれたのだろう。

 尾鳴村で千之助とやり合った男たちが、はっきりと『佐吉が逃がした』と言っていた。
 それ故、実家に踏み込まれたのだ。

「ま、お前さんが騙されたと思っても、仕方ねぇわな。それまでの佐吉の行動を見ていても、とても誠実な奴とは思えねぇだろうし」

「後はあんたが、佐吉のことを信用するかだね。旦さんの言ったことは、ほんとだよ。わざわざあんたの生国(くに)にまで出向いたんだから」

 小菊は俯いて、黙っている。
 千之助は、狐姫から煙管を受け取って、一服吸った。

「とりあえず、いきなりいろんなこと言われたって、混乱するだろ。今日のところは、休みな。あ・・・・・・部屋は二階に移ったほうがいいな」

 小菊が先程まで寝ていた奥の部屋には、佐吉が寝ている。
 今日のところはこれ以上の情報は、与えないほうがいいだろう。
 佐吉本人を見ることによって、また何か強烈な刺激を受けるかもしれない。

「お前さんが使ってた部屋で寝な」

 そう言って千之助は立ち上がり、小菊を促して階段を上がった。
< 406 / 475 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop