始末屋 妖幻堂
 やはり特に出るものはなく、小菊は苦しそうに、ぜぃぜぃと肩で息をする。
 涙が、ぽたぽたと千之助の膝に落ちた。

「それに、あたしはそれでなくても傷物です。旦那様だって見たでしょう。こんな傷がある上に、大勢に犯された娘なんて、いくら佐吉さんでも・・・・・・」

 泣きながら訴え、小菊は、がばっと千之助に抱きついた。

「せめて、せめて心の傷だけでも、軽くしていただきたいと願うのは、間違ってますか?」

 千之助の胸に顔を埋めて、小菊が言う。
 そっと、千之助の腕が、小菊の背に回った。

「・・・・・・お前がそれを望むなら、叶えてやるぜ」

 少し身体を離し、千之助は小菊の唇を吸った。
 一旦顔を離し、ゆっくりと小菊の身体を横たえる。

 小菊の帯を解き、前を開くと、身体に走る傷が目に入る。
 そろ、と傷跡をなぞりながら、千之助は小菊の耳元に囁いた。

「・・・・・・佐吉は今、下にいるぜ」

 びくん、と小菊の身体が強張る。

「俺っちが村に行ったときに見っけてな。佐吉を探しに来た廓のヤクザ者・・・・・・ああ、あいつらが、お前さんを連れ去った張本人だな、と鉢合わせてよ。一戦交えた。そのときに大怪我負ってな、こっちとしても、奴は鍵だ。客でもある。しょうがねぇから、連れ帰った」
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