始末屋 妖幻堂
 狐姫を抱き寄せながら言う千之助を、狐姫は少し意外に思った。

 いつだって千之助は、狐姫を大事にはしてくれるが、それは狐姫を引き取った義務であるのか、いまいちわからない。
 以前におさんが言ったように、狐姫を身請けしたのだって、ただヒトに害成す妖狐を、放っておけなかっただけかもしれないのだ。
 千之助の特性からいえば、十分あり得る。

 そうだとしても、狐姫自身が千之助を好いていたから、傍にいられるなら、それでも良かった。

 だが今、千之助は、狐姫を待っていたようなことを言った。
 用事もないのに千之助が狐姫を待つなど、今までなかった。
 いつも傍にいるのが当たり前だったし、狐姫が自ら千之助の傍を離れることなど、あり得なかったからだ。

「・・・・・・旦さん。旦さんは、別にあちきがいなくなったって、困らないだろ」

 少しの驚きも手伝って、狐姫はちくりと嫌味めいたことを言った。
 思わず口を突いて出てしまったことではあるが、これは今まで、ずっと心の奥底にあった不安である。

 他の千之助の周りにいるモノに比べれば、確かに自分は特別想われている、という自信はあるが、この千之助が、本当に自分をかけがえのないものだとまで想ってくれているだろうか。
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