始末屋 妖幻堂
「ヒトであることが、そんなに大事かい」

 静かに、千之助が言った。

「ヒトの皮被った外道より、妖のほうが、可愛げがあるってなもんだぜ」

「だって、おいらは普通のヒトより、感覚がおかしいじゃないか。堀川の旦那だって、呶々女姐さんだって、別に普通のヒトとして付き合っていけるもの。全然怖くないもの」

「初めに言ったとおり、それがお前さんの良いところだ。モノの本質を見抜ける力があるってことさね」

 千之助は少し戻り、小太の横に立って、ぽんと肩を叩いた。

「お前ほどの歳で、それだけちゃんと見るもの見られる奴も、そういねぇ。ふふ、かと思えば色恋にはとんと疎いし。面白い奴だよ、お前さんは」

 再び褒められて、ちょっと嬉しくなった小太だが、後半で顔を赤らめた。
 話の流れで忘れていた小菊のことを思い出したようだ。

「どうせっ、おいらみたいな色恋に慣れてない奴は、廓の遊女なんかにゃ振られちまうのがオチだって言いたいんだろっ」

「ははっ、そうさな。ていうか、廓の遊女に惚れたくせに、遊女はいろんな男を相手にするのが嫌だ、みてぇなこと言うからよ」

 うぐっと小太が黙り込む。
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