始末屋 妖幻堂
「何だって? だったらすでに、どこぞの川に浮いてるんじゃないかえ」

 さらっと不吉なことを言う狐姫に、千之助は少し考えた後、緩く首を振る。

「いや。そうすぐには殺さんだろう。小菊が戻ったわけでもなし。小菊をおびき出すためにも、ぎりぎりまで生かして使うだろう。小菊も、助けてくれた奴を見殺しにして、己だけ助かるような道を選ぶ奴じゃなさそうだし。それに、あの術は、そう強力じゃない。小太の死体でも上がれば、多分その時点で解ける。あそこの八百屋は、結構な大店だ。そこの小僧が死体で上がりゃ、それなりの騒ぎになるぜ。下手すりゃそれこそ、お上が動く。伯狸楼にとって、都合悪いだろう」

「伯狸楼だって、お上と繋がってるからこそ、汚い商売もできてるんじゃないのかい」

「真っ当な騒ぎと表沙汰にできねぇ騒ぎじゃ、世間の目ってものもあるし、とりあえずは真っ当なほうを公明正大に裁いたほうが、都合が良い。お上の側に、伯狸楼のことを本気で苦々しく思ってる者がいりゃ、それこそここぞとばかりに潰しにかかるだろう。伯狸楼は、そんな危ない賭けをしてまで度胸試しをする気はないさ」
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