始末屋 妖幻堂
 簡単な荷物をまとめ、千之助は杉成を呼んだ。

「杉成。俺っちがいねぇときは、小菊を守ってやるんだぜ。矢も、いつものところに、たんとこさえてある。いざとなったら、お仲間起こしても良いぜ」

 無表情でこくりと頷く杉成の頭をぽんと叩き、千之助はごろりと横になる。
 狐姫が、不意に現した尻尾を、ふわりと千之助の身体にかけた。

「・・・・・・狐姫も、気ぃつけろよ。今日は殺さねぇように注意してくれたようだが、次もそう簡単に追い払えるとも思えねぇ。次からは、手加減無用かもな」

 旅装束のまま目を閉じた千之助が言うと、狐姫は面白そうに少しだけ尻尾を動かした。

「それは嬉しいねぇ。ヒトなんざ、ちょいと力入れりゃ簡単に壊れちまうもの。加減が面倒臭かったんだけど、それがいらないとなれば、気兼ねなくやれる。そもそもあそこの亡八なんざ、人足にも出せないような罪人だ。ヒトが裁けないなら、あちきが裁いてやるわさ」

「あんまり派手に、やらねぇでくれよ」

「旦さんに迷惑はかけないよ」

 母狐が子狐をあやすように、尻尾で千之助を包みながら、狐姫は笑った。
 その笑みは、妖怪そのものの、ぞっとするような笑みではあったけども。
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