始末屋 妖幻堂
 一人が打ち倒されたとはいえ、人数は断然有利だ。
 破落戸たちは、にやにやと下卑た笑いを浮かべ、それぞれ牙呪丸を見た。

「ほらよっ! 大事な顔は、できるだけ守ってくれよっ」

 言いながら、一人が鎖分銅を投げる。
 飛んでくる分銅を見極め、避ける牙呪丸目掛けて、反対側から猫手が襲う。

 だが、牙呪丸は突っ込んできた猫手の男の襟首を掴むと、手首を返して引き戻されつつある分銅の軌道に突き出した。
 分銅が、もろに猫手の男の顔面に直撃する。

「ぎゃふっ!!」

 鼻血を迸らせ、猫手の男が頽れる。
 血が出ているのは鼻からだが、砕けたのは鼻だけではないだろう。
 血まみれの顔を押さえ、地面を転がり回る。

 続いて牙呪丸は、背後から忍び寄っていた男の手を、振り向きざま掴んだ。
 そのまま身体を巻き付けるように、男の身体を締め上げる。

「くくっ・・・・・・。これこそが、我の真骨頂よ」

 通常、立ったまま身体全体を使って人体を締め上げても、そう強くは締められない。
 体勢がどうしても不安定になるからだ。
 寝転んで、それなりの急所を押さえて初めて、相手が耐えられないほどの苦痛を与えることができる。

 だが今、牙呪丸に捕まった男の顔は、みるみる赤くなる。
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