始末屋 妖幻堂
「ちょいと! 待ちなってば。あんたぁ顔見られてるだろっ。そんな奴を、ほいほい上げてくれるわけないだろうがっ」

「ヒトの顔など皆同じであろ」

「それはあんただけだよっ! あんたは呶々女以外は皆同じなんだろうけど!」

 再びぎゃんぎゃんと言い争いが始まる。
 小菊は相変わらずおろおろと、とりあえず店に客が入ってこないことだけを祈った。

「小僧を見つけるにしても、伯狸楼に行かねばならんのなら、いつ行っても同じだろう」

 狐姫の忠告には耳を貸さず、牙呪丸は土間に下りると、店の暖簾を跳ね上げた。

「もぅっ! この単細胞がっ!」

 狐姫が眦を吊り上げて立ち上がる。

「小菊! 牙呪丸を止めな!」

「え? え?」

 狐姫に物凄い顔で命じられ、小菊は訳がわからないながらも、牙呪丸の後を追って店の土間に下りた。
 あの勢いでは、もうすでに通りを歩いて行ってしまっていると思ったのに、意外に暖簾のすぐ外に、牙呪丸の背中はあった。

 ほっとし、その背中に駆け寄った小菊だったが、次の瞬間には、息を呑んで足を止めた。
 牙呪丸のすぐ前に、男が何人か立ちはだかっている。
 いかにも素人でない雰囲気の男どもは、紛れもなく伯狸楼の破落戸だ。

 小菊は素早く、店に取って返した。
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