始末屋 妖幻堂
「何だ、どうしたのさ」

 ただならぬ雰囲気に気づき、狐姫が奥から出てくる。
 そして、ちらりと店先に目をやり、次いで杉成に目で合図する。
 杉成が、さりげなく小菊の近くに立った。

「・・・・・・ったくほんとに。役に立たないばかりか、厄介事を連れてきやがった」

 ぶつぶつと言いながら、狐姫は牙呪丸の背中を睨み付けた。

 破落戸らは、まだ店の前で牙呪丸と何やら問答している。
 狐姫が珍しく土間に下り、暖簾に手をかけた。

「ちょいと兄さん方。こう店の前でたむろされちゃ、迷惑なんだけどねぇ」

「あんだぁ・・・・・・?」

 牙呪丸の向こうから声を上げた男が、狐姫を見た途端、言葉を呑み込む。
 このような小さな小間物屋から、花街の太夫が現れたのだ。
 牙呪丸を隔てて、男たちは皆ぽかんと狐姫を眺めている。

「何だい、あんたら。小間物を買うような柄でもないだろ」

 男たちの視線を気にもせず、狐姫は何気に失礼なことを言い、しっしっと手を振る。
 それにやっと、男たちは我に返った。

「おぅ姐ちゃん。ちょっと待ちな。あんた、この店のモンか」

 牙呪丸を押しのけ、男がずいっと前に出た。
 狐姫は素早く辺りを見回す。

 幸い、そう人通りはない。
 が、全くないわけでもない。
 たまたま通りかかったのだろう、花街に向かう途中のような初老の男と、牙呪丸に目を奪われたような娘が、しっかりと店先で揉めている狐姫たちを見ている。
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