始末屋 妖幻堂
 小さく舌打ちしつつ、狐姫はとりあえず、店の前に結界を張った。
 これで結界内のことは、外にいる者には見えない。

 つかつかと結界内に入り込んでしまった目撃者二人に近づくと、狐姫は喉の奥から音を出した。
 その場にいた牙呪丸以外の、いわゆる人間たちが、耳を押さえて顔をしかめる。

 以前妖幻堂内で一戦やらかした破落戸に向けて放った音と同じだ。
 もっとも今は、もう少し抑えているようだが。
 牙呪丸に絡んでいた男どもはともかく、単なる通行人がいるので、一応気を遣ったのだろう。

「ほら、あんたは特に、何も見なかった」

 短く言い、狐姫はぱん、と手を打つと同時に、通行人の二人を突き飛ばし、結界から出した。

「さぁ、用があるなら、店に入りな。いつまでも店先で騒がれちゃ、迷惑なんだよ」

 男どもに向き直り、狐姫は店を顎で示した。
 いつまでも往来に結界を張っておくわけにもいかない。

 店に入ってしまえば、店を閉めればいいだけのこと。
 何が起ころうと、構いはしない。
 暖簾をくぐりながら、狐姫はにやりと口角を上げた。
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