執着王子と聖なる姫
「あーあ。ヤダねー。これだから大人は」
「冗談だよ」
「じゃなかったら殴る」

愛斗とて、メーシーがそんなことは絶対にしないとは思ってはいない。寧ろ、少しくらい他に目を向けても良いのではないかと思う。

「たまには遊べば?」
「父親に女遊びを勧めるなよ。それに、さっきと言ってることが違うじゃないか」
「いや…もったいねーなと思って」

幼い頃からメーシーが付きっきりだった愛斗は、メーシーが大好きで。マリのことも好きは好きなのだけれど、やはり勿体ないと感じてしまう。

「浮気とかしたことねーの?」
「ん?無いよ。俺はね。俺はいつだって麻理子を愛してるから」

どうしてこの人はここまで堂々と、恥ずかしげもなくそんなことが言えるのだろうか。大きなため息をつきながら、愛斗は思った。

そして、ふと気付いてニヤリと口角を上げる。


「マリーの相手ってハルさんだろ?」


嫌な笑みを浮かべる愛斗に笑顔を返し、メーシーはグラスを傾けた。それを無言の肯定だと捉えた愛斗は、「やっぱりな」と嬉しそうに笑い、うんうんと何度か頷いて改めて机に向った。

以前から何かあるとは感じていたのだけれど、敢えて深く突っ込むことはしなかった。それが優しさだと思っていたし、揉め事を起こす気も更々無い。

けれども、今のメーシーは何か言いたげな視線を寄越していて。言うだろうか…と、メーシーそっくりの意地の笑みを浮かべながら、愛斗はメーシーの告白を背を向けて待った。
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