執着王子と聖なる姫
レベッカをメイクルームに引き込みメーシーがまず初めにしたことは、扉に鍵をかけることだった。

少なくとも、あと二時間は誰も戻っては来ない。けれども、ここには晴人と愛斗が残っている。腹黒い二人のことだから、涼しい顔をして乱入して来かねない。と、間違いなく腹黒No.1だろうメーシーは思う。

「前髪だけでいい?ついでだからメイクもしようか?」

優しげに微笑むメーシーに、レベッカはプッと噴き出した。

「疲れないデスカー?フェミニスト」
「君こそ」

椅子に腰掛けたレベッカの顎をクイッと持ち上げ、メーシーはふと気付く。


「誰とキスしたのかな?」


店を出る前に塗り直したはずのレベッカのグロスが、もう取れてしまっている。いくら飲み物を飲んだとて、そうそう落ちるものではない。何より、レベッカは必ずストローを使うのだから。

眉根を寄せるメーシーに、レベッカはにっこりと笑った。

「気になる?」
「俺はダメで、マナはいいんだ」

更に上向けると、サラリと流れたブロンドの間からさっきまで無かったはずの物が姿を現す。それに沸き立つのは、意外なことに嫉妬心だった。

「マナから貰ったの?」
「うん」
「もう一度訊くよ?マナとはどうゆう関係?」

じっとメーシーの目を見つめ、レベッカは思う。あともう少しだ、と。

「we are nice friend」
「ホントにそれだけ?」

もう少し…もう少し…と、駆け引きを楽しむレベッカ。そして、「絶対王子のせいだ!」などと思いながらも、とめどなく湧きだす嫉妬心に抗えないでいるメーシー。

対照的な二人の間には、30歳の年の差がある。

「今日、私の誕生日なの」
「今日?」
「そう。だからそのプレゼント」

髪を耳に掛け、貰ったばかりのプレゼントを披露するレベッカ。右目と同じ色をした、アイスブルーの石。

それにゆっくりと唇を寄せ、メーシーはレベッカの耳元で囁く。


「来週からの出張、レベッカも連れて行ってあげようか?一週間LAに行くけど」


LAという言葉に、レベッカがぴくりと反応を示す。やっぱりか…と、腹黒い年上の悪魔が笑った。
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