執着王子と聖なる姫
けれどどうしたことだろう、今朝の俺は。

何を思ったのか、危ない道に走ってしまった。あれも一種の「天然タラシ」というやつだろうか。末恐ろしい女だ。

「ねぇ、マナ」

コツンと額を合わせる妹が、鼻先をくっ付けて問い掛ける。あぁ、もうっ!可愛くて仕方がない。

「I love U,Layla」
「I love U,Mana」

そこに邪な感情などは無く、ただ純粋な兄妹愛なのだ。それを俺達以外が理解してくれるかどうかは別として。


「まぁたそんなことしてる。ホント困ったちゃんなんだから、君らは」


珍しくノックもせずに扉を開けた父が、ふふっと相変わらず女みたいに綺麗に笑っている。

「メーシー!」
「パパだよ、パパ」
「パパぁ」
「よしよし。可愛いね。大好きだよ、レイちゃん」

これはまた珍しい。当然その後ろに居るだろうと思っていた母の姿が見えないのだ。どうしたことだろうか、これは。

「パパあのね、マナがもう明日から一緒に学校行ってくれないって言うの!」
「てめっ!メーシーに言い付けるなんて卑怯だぞ!」
「ふーんだ!ねぇ、パパぁ。マナに言って?レイと一緒に学校に行くように言って?」
「そうだねぇ…」

纏わり付く愛娘の髪を撫ぜながら、困ったように笑う48歳。うん。相変わらず美形だ。

そんな風に納得する俺を、褐色の双眸が射止める。一瞬ヒヤリとしたけれど、特に攻撃的なわけでもなく、ただただ寄越されるだけの視線。少し居心地が悪い。後ろめたいことがあるから。あまりの居心地の悪さに、身動ぎしたその時だった。

「そのことで話があるんだ、マナ。レイちゃんは少しだけママのところへ行ってくれる?」

あぁ、ヤバイ。これは今朝のことをセナが喋った感じだ。咄嗟にそう判断して、コクリと頷いた。

マズかった。あれは確かにマズかった。いや、マズくはないが…相手を間違えた。そう、相手がアイツだったからマズかったのだ。

「イヤっ!」
「イイコだから。ね?すぐに済むよ」
「えー!」
「よしっ。じゃあ今日はパパと一緒に寝る?大サービスだよ」
「いいのっ!?やった!」
「じゃあママのところへ行っててね?」
「ハーイ!」

ご機嫌に部屋を出て行く妹は、どうやらまだわかっていないらしい。16年間この家で育ってきたというのに、何とも可哀相な奴だ。と言うか、16になってまであれとは実に痛い妹だ。
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