執着王子と聖なる姫
「いいのかよ、あんなこと言って」
「ん?平気だよ」
「嘘吐けよ。どうせまたマリーに追い出されんだろ?」
「それはどうだろ。今日の彼女はご機嫌だから、意外とあっさりOKするかもよ?」
「はぁ…んなわけねーじゃん」

過去幾度となくそう言って、その度に妹が泣いて戻って来るのだ。それを慰めるのはいつも俺。

愛し合っているのは良いけれど、愛し合い過ぎもどうかと思う。この年になって弟か妹が生まれないことを願うばかりだ。

「でね、学校の話なんだけど」

ため息をつきかけた俺を、再び褐色の瞳が射止める。これは困った。

「学校がどうしたって?」
「今朝、セナちゃんと会ったんだってね?」
「あぁ、うん」

曖昧に返事をしてベッドに腰掛け、不自然にならない程度にスッと視線を逸らす。

厄介なのだ、こういった時のこの人は。

母のように乱暴に叱ったり責めたりはしないけれど、じわじわと追い詰めて来る。決してひけらかしはしないけれど、頭の良さがハッキリとわかる。

「マナは、セナちゃんをどう思った?」
「どうって?」
「どんな女の子だと思う?」
「いや…」
「正直に」
「変な…奴だと思う…けど?」
「そっか」

嘘は吐かない。嘘を吐いたが最後、徹底的に追い詰められる。一度それをして後悔した俺は、それ以来父に嘘は吐かないと決めている。

けれど、核心を突かれるまで自分からは言わない。この意地っ張り加減は、おそらく母譲りだと思う。

「姫に…セナちゃんのママに会った時、俺も変な子だと思ったんだよ」
「へぇ…」
「でも、純粋で可愛い子だった。王子のことが大好きでね、そりゃもう見てるこっちが照れるくらい」
「…そう」
「確か…17歳、だったな」
「…は?」
「姫が17歳の時だったよ、俺達が知り合ったのは。王子は28かな」
「やっぱ…」

出掛かった言葉を慌てて呑み込む。やはりロリコンだ、ハルさんは。これはもう否定のしようがない。
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