甘い誓いのくちづけを
「不安があるのは、ちゃんとわかっているつもりだよ。俺はまだ、自分の事を何も話していないからね……」


理人さんはそこで自嘲気味にため息を漏らし、深刻な表情を見せた。


「でも、今はまだ話せない」


「どうしてですか……?」


やっと言葉を発した不安げなあたしに、理人さんがどこか悲しげに微笑んだ。


「君には、ちゃんと俺を見て欲しいから」


何かを隠し秘めているような口振りに、全身がグッと強張る。


その言葉に込められた意味は、あたしには計り知れない。


それでも、もうこれ以上は訊けない。


だって…


あたしを見つめる理人さんのダークグレーの瞳が、彼の気持ちに嘘偽りが無い事を物語っていると思えたから…。


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