甘い誓いのくちづけを
「なら、濡れて帰るのか?」


「いえ、えっと……」


濡れてしまうのは困るけど、だからと言って好意に甘えるのも勇気がいる。


「駅までだろ?行くぞ」


そんなあたしの気持ちを知ってか知らずか、榊原課長は言い終わるよりも早く歩き出した。


「えっ?あの、ちょっと……」


戸惑いながらも無視する訳にはいかなくて、慌てて後を追う。


会社を出た瞬間、目を見開いてしまう程の大雨に絶句した。


「ほら見ろ。さっさと行くぞ」


「は、はい……。失礼します……」


ここまで来ればもう覚悟を決めるしか無い事を悟って、怖ず怖ずと榊原課長の傘に入れて貰った。


その直後…


「瑠花」


大きな雨音に紛れて、優しい声音が耳に届いた。


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