甘い誓いのくちづけを
視界に入って来たのは、文博が自分(アタシ)にくれたエンゲージリング。


あの日は鈍色に見えたのに、今日は奇(ク)しくもその輝きが際立っている気がした。


「勝手な事を言ってるのは、充分わかってるつもりだ……」


未だに黙ったままのあたしに、次々と言葉が投げ掛けられる。


「瑠花を傷付けておいて今更やり直したいなんて、本当に都合が良過ぎると思う。でも……」


真剣な顔をしている文博が、あたしの瞳を真っ直ぐ見つめた。


「それでも、俺には瑠花が必要なんだ」


真剣な声は、それが彼の本心なんだって事を、どんな言葉よりも雄弁に物語っていた。


過去だと思っていたのは自分(アタシ)だけで、文博の中にはまだ自分(アタシ)がいた。


だけど…


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