甘い誓いのくちづけを
理人さんは一度瞼を閉じてから、眉を寄せて自嘲気味に笑った。


「俺はただ両親と向き合うのが恐くて、血の繋がりがない事を理由に逃げていただけなんだ、って事に気付いたんだ」


“逃げる”なんて厳しい言い方だとは思ったけど、彼の話に黙って耳を傾ける。


「両親はいつだって、どんなに些細な事でも褒めてくれた。悪い事をしたらきちんと叱ってくれて、でもその後には必ず優しく抱き締めてくれた……。理不尽な理由で叱られた事なんて、一度だってない」


まるで、幼い日に思いを馳せるように幸せそうに話した理人さんは、その表情に後悔を滲ませた。


「愛情がなければ出来ない事なのに、俺は血の繋がりだけに気を取られていて、そんな大切な事を忘れてしまっていたんだ……」


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