ピュアなんです。
適当に会話していたらすぐについてしまった映画館。
もうすでに11時。
「はい、着きましたよ。棗ちゃん」
「ありがとうございます」
「兄貴、ちょっと待っててもらっていいか?」
「んー?…わかったよ」
豪さんはこっちをちらっと見た。
「よし、委員長。送るよ」
「え、それはちょっと悪いよ」
「いいから、ほらさっさと出ろ!」
「えぇ?」
無理やりおベンツ様からおろされる。
乗るときの紳士的な中野はどこへやら。
中野も降りてくると、手にはジャケットがあった。
「兄貴が夜はまだ寒いから着てけって」
「風邪引くなよ」
「ありがとうございます!」
確かに肌寒いとは思っていた。
大人の男の気遣いはやっぱり違うな。
「いこ」
ぽんっと中野が私の頭に手を置く。
なんだかこのシチュエーション、彼氏みたいだ、とか一人で思うと恥ずかしい。
「委員長も可愛い格好すれば、可愛らしいのにね」
「分かってるよ、私が可愛いくないなんて!!これが私なの!!」
「俺さ、褒めてるんだけど」
「え?」
え?褒めてる?
あの中野が?
いつも失礼な中野が?
「そうだったのか」
「天然なんだかお馬鹿なんだか」
「多分お馬鹿。天然はもっと可愛らしい」
「それ自分で言う?」
なんて夜道を爆笑して歩いた。
2、3分でつく道のり。
門の前で立ち止まると、中野が深刻な顔であのさ、と呟いた。
「なんだよ、急に」
「俺がホストクラブいたこと、何にも言わないのか?」
目を合わせずに言う。
「…言って欲しいの?」
「えっ…」
「確かにびっくりしたよ。そりゃ聴きたいけど…お前から言わなきゃ聞かないよ。言いにくいだろう、多分」
「…委員長」
ちょっと笑いながら言うと中野はやっと顔を上げた。
「じゃあな」
門を開けて言う。
ドアノブに手をかけたとき、後ろから声が聞こえた。
「ありがとう、いつか言うから!」
「…待ってるよ。送ってくれてありがとう、誠哉」
すぐに家に入った。
言い逃げってヤツだ。
バカにされるのが恥ずかしい。
火照る顔を抑えた。
「…っ!言い逃げは…卑怯だぞ、委員長…」