触れないキス

──立花さんから話を聞き、病院を出た私はまたひたすら走った。

瞳からボロボロと溢れだす涙は夜風が振り払ってくれるから、そんなのは気にせずに、とにかく走った。


向かう先は“海が見える公園”。


『そらの家はどの辺なの?』

『……海が見える公園のそば』


あの時の言葉に賭けるしかないと思った。

私がそらに……

柚くんに、もう一度逢うためには──。



立花さんは、とても申し訳なさそうに全てを話してくれた。


『瑛菜ちゃんが退院した一ヶ月後にね……柚希くんは、亡くなったのよ』


私の一つの考えは、やっぱり正しかった。


『亡くなる前に、柚希くんは私に言ったの。“もし瑛菜ちゃんが会いに来たら、僕は退院したって言っておいて。瑛菜ちゃんにはずっと笑っててほしいから”……って。

すごく悩んだけど、瑛菜ちゃんも幼かったし、何より柚希くんが心底それを望んでいて……。私は柚希くんの言う通りにしてしまった』


それを信じて疑わなかった私を見ていたら、きっと立花さんは本当のことを言えなかったんだろう。

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