君が居た世界が、この世で一番愛した世界だったから。
6
十二月になった。
雪が散らつく日も増えて、手袋やマフラーが必需品になった。

十二月一日から、バイト先のカフェでは、店内には気の早いクリスマスソングが流れている。
これから約一ヶ月をかけて、街並みや家々の外装、人の気持ちまでもが、クリスマスの雰囲気をまとい始める。
クリスマスは好きだ。プレゼント交換や、豪華な食事、もうお腹いっぱいのはずなのに、なぜか食べれてしまう、デコレーションたっぷりのクリスマスケーキ。
だけど、今はすでに、店内に流れ続けるクリスマスソングに飽き飽きしている。
有線放送には、一チャンネルごとに流れる曲が決まっている。
クリスマスソングのチャンネルもそうだ。
開店時間から閉店時間まで、延々と同じ曲がループする。
この時期はどこに行っても同じ。
結局は、いくつになっても誰しも「お祭り」が好きなのだ。

去年のクリスマス直前、夜くんが言った。

「サンタクロースなんてオッサン、まさか輪廻は待っていないだろうね?
君が待つのは俺だけにしてくれ。」

「サンタクロースは夢を与えてくれる、素晴らしいオジ様ですよ。
私、大好きだなぁ。」

からかった私の目に飛び込んできたのは、夜くんがテーブルの上に広げたルーズリーフの、一番上に殴り書きされた、「サンタクロース、殺害計画」と、その下の箇条書きだった。

いつかの夜くんを思い出し、ふふ、と笑みが溢れる。
彼との思い出を思い出しても、今はもう、笑えるくらいにはなってきている。
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