深海の眠り姫 -no sleeping beauty-
11. 眠りから醒めたら





「―――環ちゃんて、まだ直人のこと“芦谷さん”なんて呼んでるんだねぇ」




火曜の午後、いつも役員室で仕事をしている私にユウさんはそう話しかけてきた。


芦谷さんもついさっきまではここにいたんだけど、社長直々の呼び出しに社長室に向かってしまい今は私とユウさんの二人きり。
そう言われた私はふと書類を書く手を止め、ユウさんを見た。



「…そういえばそうですね。でも、今は仕事中ですから」


「じゃあプライベートでは?」


「………“芦谷さん”ですね」


私は何故だか後ろめたくなってそう答えたっきり口を閉じた。
そんな私を見て、ユウさんは一層楽しそうに笑っている。





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