鏡【一話完結型】
「それから、私達は会う事が出来なくなっていたの。
顔を合わせれば、信人を思い出すし、責めてしまいそうになるし。
どうしたって、うまく笑えなかったっ!!」
とうとう、風子はその場に崩れ落ちる。
そして。
「……、感情、なんて、失くしてしまいたい」
ぽつりと風子は本音を吐き出した。
掠れた声。
響く嗚咽。
止まらない涙。
だけど、鏡の主に“慰めよう”なんて気持ちは一切ない。
そんな感情を持ち合わせていないのだ。
『楽しい、とはなんだ』
「……え?」
最初、風子は空耳だと思った。
だけど、鏡の主は続けた。
『楽しい、の感情がわからぬ。笑うも泣くも怒るもわからぬ。
だから、今主がそんなに泣いてる理由が理解出来ぬ』
「……」
それに、風子はまたも絶句した。
彼女は過去、同じ事を言われて“なんて寂しいのだろう”と感じたのだから。
感情など、失くしてもきっと生きてて面白くないのに。
それは頭ではわかっていた。
頭では痛いほど理解できていた。
だけど、どうしたって信人を思い出して心が痛いのだ。
辛さが上回って、風子を容赦なく苦しめる。
そんな日々から解放されたかった。