鏡【一話完結型】


『ずっと、一緒にいられると言っただろう』

「で、も、信人は」

『何故、生がないといけない?今も男はそこにいるのに』

「え?な、にを?」



風子は鏡の主の言ってる意味が理解出来なかった。
今度は風子が首を傾げる番だった。



『新藤信人は確かに主の側にいる。そうか。それは人間には見えないモノなのか』

「……」

『それに、感情があるから今主は悲しんでいるのだろう』

「……」

『感情がなければ、新藤信人が生を全うしたといえど、主の様に涙など流さぬ。
そして、そんな人間の事をすぐに忘れるだろう』



例えば、それはニュースで流れる事件や事故の被害者の様に。
一時世間を騒がせても、自分の知り合いでもない他人の事を憶えている人間などいないのだ。



「……そんなの、嫌だ」



風子は俯きながら呟く。



「信人が死んで、悲しめないなんて……嫌だ」



そして、風子はなんて事を考えていたのだろう。
そう酷く思った。


『ならば、主の中で答えは出ている』



それに風子は頷かなかったけど、来た時とは明らかに違っていた。
その目には強い光が宿っていた。
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