ヒコーキ雲に乗って
「でもさ…。」

黙って聞いていた貴子が口を開いた。

「何かに打ち込んでみたいって言っても、別にそれがゼミである必要はないんじゃないん?他にも色々あるやん。バイトとか、趣味とか…。」

どうやら貴子は、今まで通り3人一緒に楽で、楽しい方向に進みたい様だった。

いつもの夏海なら、恐らくここで貴子の言葉に納得して、折れていただろう。

でも今回だけは違った。

「確かに貴子みたいにバイトとかに打ち込む事もひとつやとは思う。でも、私はせっかく努力して入学したこの大学で、何かをしたっていう痕跡を残しておきたいねん。だから、もう決めてん。」

そう言った夏海の瞳は、今までに見た事がないぐらいしっかりと前を見据えていて、彼女の強い意志がうかがえた。


その夜、なかなか眠れなかった。

色々な考えが頭の中をよぎっていた。

夏海の言う事はすごくよくわかる。

私だって、このままダラダラ学生生活を過ごして、適当に就職活動をして、そこそこの会社に入社する事が良いとはとても思えないでいたのだから。


でも、貴子の言う様に、打ち込む事の対象が全く興味のない事である必要がない気もする。

だからと言って、貴子のように何か他に真剣になれるものがあるわけでもない。

結局、一番中途半端なのは私だ。

そう思うと情けなくて、悔しくて、なぜか泣けてくる。

何にも真剣に取り組もうとしないから、全てが中途半端で結局2年間で得たものなんて何もない。

入学と同時に始めたバイトは楽しかったが、ベテランになるにつれて責任あるポジションを任されることが面倒で、1年半でやめた。

告白されて何となくいいかなと思って付き合った彼氏とは1年も持たないうちに別れた。

その後も適当に誘われればご飯を食べに行ったり、デートをしたりする相手は何人かいたが、いつも家に着いて感じるのは、妙な緊張疲れと虚しさだけだった。

本気で何かを手に入れたいと思った事も、誰かに愛されたいと思った事もこの2年間一度もなかった。






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