三毛猫レクイエム。


 それから、あきはまた笑顔を見せてくれるようになった。
 医者の言葉通り薬が変えられ、しばらくすると、経過が良好だと教えてもらった。

「あき、良かったね。薬効いてるみたい」
「ああ」

 嬉しそうに微笑むあき。だけど、私は気づいていた。あきが、やはり諦めているということに。
 諦めないで欲しいと、私がいくら願っても、あきはやはり諦めなくちゃいけないと思っている。
 その頃から、私はあきが自分の死期を悟っているのだと、そう気づいてしまっていた。

 だてに長い時間を一緒に過ごしてきたわけじゃない。
 あきの気持ちを悟れるくらいには一緒にいた。だけど、私はそんなあきの思いに気づかないふりをした。
 悪あがきなのかもしれない。だけど、諦めて欲しくなかった。

 この繋いだ手を放さぬように、一生、私と一緒にいて欲しかったから。


「あき、大丈夫だよ。治療も今のところ上手く行ってるでしょ?」

 私が笑いかければ、あきも笑顔を返してくれる。

「真子、ありがとう」

 私の大好きな低い痺れるような声で、愛を囁いてくれる。

「真子、大好きだよ」

 ねえ、あき。
 私は気づいているよ。

「あき、愛してる」
「……俺も」

 あきが返事をためらう理由も、わかってる。

「真子、愛してるよ」

 あき、知ってる?
 私はあきに死んでもらいたくないよ。
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