三毛猫レクイエム。

「真子」

 でも、あきが覚悟しているのなら、私も覚悟しなくちゃいけないんでしょう?

 甘えたように抱きしめるあきの身体は、入院した頃からさらに痩せて、骨ばっている。幾度となく点滴と輸血を繰り返した腕は、見るのも痛々しい。

「もしも俺が死んだら、真子は泣くと思う」

 あき、お願い。
 俺が死んだら、なんて思わないで。

「あき……」

 お願いだから、死なないで。

「っていうか、泣いてくれないと、ちょっと寂しい」

 でも、私は気づいてしまっているから。あきが諦めようとしていることに、気づいてしまっているから。
 あきが覚悟しろって言うのなら、私はそれを受け止めなくちゃいけないから。

「真子、泣いていいから。俺がいなくなったら、泣いてくれればいいから。それこそ涙枯れるまで、泣いてくれてもいいから」

 でも、この、大好きなあきの声が聞けなくなるのなんて嫌。
 あきが、いなくなるなんて、嫌だ。

「だけど、涙が枯れたらそのときは、前を向いて歩いていくんだぞ。俺は、真子のそばにいてやれないんだからな」
「あき、そんな冗談言わないで」

 だから私は笑顔で言い返すんだ。

「あきはずっと私と一緒にいるんだから」
「お前なあ、万が一のことを言ってるんだろうが」

 あき、わかってるよ。
 あきは、確かに来る未来の話をしているんだよね。
 でもあき、私は二人の未来を願わずにはいられないから。
 私は、あきを諦められないから。

 お願いだから、死なないで。



 そんな願いも虚しく、それから一週間ほど経ったある日、あきは肺炎を患った。


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