三毛猫レクイエム。



 結局、私は今でもあきを諦められていない。
 もういなくなってしまったとわかっているのに、諦められていないんだ。

「あき……」

 あきが諦めてしまっていても、私はやっぱり諦められなかった。
 あきが覚悟を決めていても、私は覚悟なんかできなかった。

 あきがいなくなるということが想像できなくて、当たり前のようにあきのいる未来しか頭になかった。
 だから、あきがいないという現実は、私にとってはありえない未来だった。


 忘れられないことはわかっていた。それでも、前を向こうとした。だけど、私はせっかく踏み出した一歩を下げることを厭わない。
 あれだけ苦労した決心も、あきの前にはすぐに崩れ去ってしまう。

 結局、私にはヒロではなくてあきを選ぶことしかできないから。
 そしてそれを、大勢の人が、あきが、望んでいるから。


「あき、会いたい……」

 私は、左薬指の指輪をそっと撫でた。

「いつか、石がついた指輪をくれるって言ったのに……」

 涙が、止まらない。

「いつか、明菜ちゃん達と本当の家族になる日がくるって言ったのに……」

 想いが、止まらない。

「一生、一緒にいるって言ってくれたのに……っ」

 あき、貴方への想いが止められないよ。

 あきの声が聞きたい。
 あきの手に触れたい。
 あきの心を感じたい。

 こんな思いのまま、ヒロと一緒にいるわけにはいかない。
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