三毛猫レクイエム。
生きたい、と走り書きされた作詞途中の紙には、濡れて乾いた証の皺が寄っていた。
私の前ではいつも笑顔を見せていたあきも、独りになったときはいつも泣いていたのかもしれない。
その紙を見た日から、私は時間が許す限りあきと一緒にいるようにしたんだ。
あきが笑顔でいられるように、泣き虫な私を彼が笑わせてくれるように、私が彼を笑顔にするために。
あきが、病気に勝てるように。心が強くあれるように。
いつも変わらない笑顔を見せてくれたあきは、私を置いて逝った。
たった二十九年の人生、悔いのないように、なんて綺麗事は言えるわけがない。
あきだって、いくつものことを諦めて、そしてその生涯を終えた。
その最期の顔があまりにも穏やかな笑顔だったのは、もしかしたら、泣き虫の私のためだったのかもしれない。
泣き虫な私は、いつもあきの笑顔で笑顔になれたから、だから私のためにあきは笑っていてくれたのかもしれない。
「ヒロは……」
「ん?」
やっと収まってきた涙をぬぐって、私はヒロに話しかけた。
「新しいバンド組んでないの?」
さっき、YUKIやTETSUが新しいバンドを組んでいるって言っていたけど、それならヒロはどうなんだろうと単純に気になった。
ヒロは首を横に振った。
「音楽は好きだし、ベースも好きだけど、やっぱりタキがいないところで音楽をやろうとは思えなかった」
「……」
「ベースに触ってると、タキと過ごした日々ばっか頭に浮かんで、前に進めなくなりそうになる」
ヒロの言葉に、私は胸が締め付けられるような思いがした。
「女々しいだろ?」
私は頭を振った。それを見て、ヒロは微笑んだ。
「だから、今は、親父の建築事務所の手伝いなんかしてる」
「あきは、やっぱりずるいね」
私は、今度はちゃんと笑った。