三毛猫レクイエム。

「ヒロ、起きられる?」

 小さく唸るだけで、返事はない。

 みゃ

 ヨシが寝室の入り口のところで、心配そうに様子を伺っている。私はヨシに微笑みかけて、

「大丈夫。様子を見て、起きられそうだったら病院に付き添うから」

 私はヒロの身体を横に向けた。

「ごめんね、ヒロ。でも、余計悪くなるから……」

 私は、意を決してヒロの上半身を濡れタオルで拭いた。半分意識があるのか、ヒロは私の動きに合わせてくれる。

「ヒロ、Tシャツ、替えるよ」

 少し苦労しながら、なんとかTシャツを替えた。
 私が手馴れているのは、あきの看病をしたことがあるからだ。あきのやせ細った身体を思い出して、目の前にいるヒロが健康でいてくれることをただ祈った。

「ヒロ、飲み物飲める?」
「……ん……」

 私はペットボトルのスポーツ飲料をヒロに飲ませる。そして濡れタオルを額に置いた。
 しばらくすると、ヒロは寝息を立て始めた。

「……ヒロまで、私を置いていかないで……」

 私は、唇をかみ締めた。


 ヒロが倒れているのを見たとき、嫌でもあきのことを思い出した。ヒロまで、遠くに行ってしまうような錯覚をした。
 ヒロまで失いたくないと、私の心がパニックを起こした。

 だから、気づかされたんだ。

 私は、ヒロに惹かれている。ヒロを失いたくないと思っているということに。


「……真子さん……?」
「んっ……」

 声をかけられ、ベッドに頭を乗せて、ぼーっとしていた私ははっとして顔を上げた。そして困惑気味のヒロと、目が合った。

「なんで……えっと……?」

 状況がつかめていないヒロの額に、私は手を伸ばした。

「……まだ熱い」

 そう言って、時計を見れば、あれから四時間も経っていた。外を見れば、真っ暗だ。

「ちゃんと寝てて」
「なんで、ここに……?」

 私はヒロを寝かし、ヒロが起きたときに落ちたのか、すっかりぬるくなったタオルを拾った。それを濡らして、ヒロの額に置く。

「仕事から帰ってきたら、ヨシが私の部屋の前にいたの」
「ヨシが……?」
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