三毛猫レクイエム。
「その子、困ってる」
「んだよ、タキは堅いなぁ」
私が、タキと呼ばれた彼を見ると、深い緑のような瞳と目が合った。
その瞬間、私は心臓をつかまれたかのような衝撃とともに息を呑んだ。彼も、長いまつげに縁取られた目を見開いた。
そのときの感覚は、説明しがたい。ぎりぎりのところにあった磁石同士が、何かの拍子にくっついたかのような、そんな感覚。
「……誰、待ってるの?」
「し、シルクウェイヴの翔さんです」
黒髪の彼は、まじまじと私を見ながら、
「翔なら、随分前に出て行ったよ」
そう教えてくれた。私は、彼から目が離せなかった。
「なあ、君、名前は? 俺はテツ。よろしく」
横手から赤髪の男――テツが名乗った。私ははっとして、
「姫木真子です」
思わず名乗ってしまった。
「真子ちゃん? へえ、いくつ?」
「テツ、そこまでにしとけって。真子ちゃん困ってるから」
「ちぇっ、タキは堅いな」
そう言いながらも、テツは笑っている。大して気にしている様子ではなかった。
「今から帰るの?」
「あ、えっと……」
確かに目当ての翔がいないのなら、帰るしかない。だけど、私は返答に困った。それは、タキのことが気になって仕方がなかったからだ。
「真子ちゃん、俺らのこと知らないよな」
「ご、ごめんなさい」
「はは、仕方ないよ、俺達まだ音源出してないし」
タキはそう言って笑った。こんなに目立つ人、気づいてもいいのに。どうして今まで知らなかったんだろう。