三毛猫レクイエム。
「お兄ちゃん、元気になってね」
「明菜……」
「また、お兄ちゃんの歌、聞きたいから。絶対、良くなるから。頑張ってね」
いっぱいいっぱいの明菜ちゃんの言葉に、あきは微笑んだ。本当に嬉しそうな笑顔だった。
「明菜が頑張ってここまで来たんだから、俺だって頑張らないわけにはいかないよな」
「そうだよ。真子姉だって、お母さんだって、みんなお兄ちゃんが良くなるって信じてるよ。だから、頑張って」
頑張っている人間に、頑張れというのは禁句だと誰かが言っていた気がする。あきは十分すぎるほど頑張っているから、本当は頑張れというのは、駄目なのかもしれない。
だけど、明菜ちゃんの真っ直ぐな言葉は、落ち込んでいたあきの心を強くしてくれた。
「明菜、ありがとう。俺、頑張るから」
「うん……っ」
それからまた、あきの笑顔が戻ったんだ。
だけどその数日後、医者から、あきの経過が良くないと聞かされた。
うちのショップでは、携帯のパンフレットと共に週刊誌もそろえてある。それに気づいたのは、閉店後に最新の週刊誌と入れ替える作業をしていたときだった。
「え……?」
ふと目に入ったのは、表紙の右端に書かれた『Cat‘s Tail元メンバーの裏切り』という文字だった。
嫌な予感がして、私は雑誌をめくった。
『人気ロックバンドCat‘s Tail元メンバーの裏切り
Vo.TAKIの突然の訃報により解散した人気ロックバンドCat‘s Tail。その元メンバーであるHIROが、ある女性と親密にしていることが発覚した。
生前、結婚秒読みの一般人の彼女Mがいると公言していたTAKI。なんとHIROのお相手は、そのMだというのだ。
メンバーの中でも特別仲が良かったことがファンの間でも知られているTAKIとHIRO。TAKIが亡くなってから、まだ一年。多くのファンが未だTAKIのことを忘れられないでいる中、まさか亡き親友の彼女と親密になるとは。
それともHIROとMにとって、TAKIは出会いのきっかけとなったのだろうか。』