三毛猫レクイエム。
「お母さんと一緒に行ってもいいと思ったけど、辛い思いしてるお母さんにわがままなんか言えなくて……」
本当は、わがままなんかじゃないのに。
「私が付き添ったら、明菜ちゃんは病院に入れる?」
「え……」
「明菜ちゃんはずっと眼を閉じててもいい。ちゃんとあきの病室まで連れてってあげるから。明菜ちゃん、頑張れる?」
私がそう尋ねると。明菜ちゃんは力強く頷いた。
翌日、約束どおり明菜ちゃんと病院の前で待ち合わせた。
「明菜ちゃん、大丈夫?」
「うん。お兄ちゃんが頑張ってるのに、私がへたれてるわけにはいかない」
そう言う明菜ちゃんだけど、顔が青ざめていた。私は、その左手をしっかり握って、
「行こうか」
「うん」
明菜ちゃんと歩き出した。
病院に入ってから、明菜ちゃんの手が震えているのがわかった。時折、びくんと何かに反応しているのがわかった。私はそんな明菜ちゃんを励ましながら、あきの病室へと連れて行った。
「あき」
声をかけると、あきは振り返った。そして、私は明菜ちゃんを自分の前に押しやった。
「明菜……」
明菜ちゃんが病室を訪れることを、予想だにしていなかったのか、あきは目を見開いて驚いていた。
「お兄ちゃん……っ」
明菜ちゃんは、ゆっくりとあきに近づいて、そっとその手を握った。
「ごめんね、今まで来れなくて」
「お前……病院怖いんだろ? 医者にかかる時だって、いつも医者を家に呼んでたじゃないか」
「でも、お兄ちゃんに会いたかったんだもん……っ」
泣きながら、あきの顔をまじまじと見つめる明菜ちゃん。