廻音
何度か姉を介し、黒雅さんと面した事がある。
第一印象は「美しく、聡明な人」。

そう。姉の恋人として最も相応しく、その為に生まれてきたと言っても過言ではない。
この世の美をすべて奪ったような、秀逸を極めた美しさ。

「神の最高傑作だね。」と笑った姉を、私は笑い返す事が出来なかった。

望めば何もかもを手に入れる事も可能であろう彼は、しかし望むものは姉以外には何も無い様だった。

異常なまでの愛と、故に共存する執着心。
姉が「死んでくれ」と言えば喜んで自害するような人だった。

だからこそあの夜、彼は密室である筈の部屋に居たのだ。

当然である。「護衛の為に」。
ピッキングなんて、何のその。
愛故の行動。

それが愛じゃないのなら、何だって言うんだ。
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