エトセトラエトセトラ
「捨てる? どうして捨てるのよ。骨董屋のご主人も言ってたじゃない、「何も心配することはない」って。危険なことなんて何も起こらないわよ」
「あのひとの言うことに信憑性はないし、何か起こってからじゃ遅いんだよ。大体おかしいじゃないか、落としたはずのものが落ちてないだなんて。気味が悪いよ」
「気味が悪い? あなたもこの時計に興味を持ってくれていると思っていたのに!」
「君を危ない目に遭わせたくないんだよ。お願いだからその時計を渡して」
語尾も強めに彼女の手の中の落下タイマーに手を伸ばした。無理矢理にでも彼女の手から時計を奪うつもりだったのだが、彼女は僕の予想以上に抵抗した。
「だめよ、これは私のなの!」
ソファの上で僕たちはもみくちゃになりながら争った。時計を上手く奪ったと思ったら彼女がしがみついてきて、時計は再び彼女の手に戻る。彼女を誤って引っ掻いたりしてしまわないように注意を払っていた分、僕は不利だった。
それでも僕は引くわけにはいかなかった。彼女は僕が守るのだという使命感が僕の体を支配していた。
はずみで時計が二人の手から逃れた。僕たちは同時に悲鳴を上げ、手からこぼれた時計に精一杯腕を伸ばした。時計が落下していく。その様子が、僕にはまるでスローモーションのように見えていた。