エトセトラエトセトラ



ぱし、と時計を掴んだのも同時だった。僕らは体のバランスを崩し、ソファから一緒に転げ落ちた。

気が付いたときにはもう遅かった。

そう、これが、最後の"落下"だった。


次の瞬間僕たちはソファの上に仲良く並んで座っていた。二人一緒に手に持っていた時計が、かち、と微かな音を立てて反時計回りに進んだ。


――針が、真上を指した。

僕たちは息を呑んだ。

風が通り抜ける音がした。遠くの方から何かがものすごいスピードで近付いてくるような、猛烈な勢いだ。

反射的に僕が彼女を庇うようにして抱え込んだ瞬間、座っていたソファの感覚が消えた。

彼女が僕の腕の中で声にならない叫び声を上げた。自分たちに起こっている状況を理解するとか考えるとかよりも先に感じたのはただひとつの感覚。

落下。

僕たちは仰向けになって落下していた。僕が理解できたのはそこだけだった。腕に抱えた彼女が悲鳴を上げている。僕はただしっかり目を見開くことしかできなかった。

今居る場所が、先ほどまで居た空間――つまり自分の部屋ではないことだけが確実だった。僕の住んでいるマンションは大人二人がソファから落ちたくらいじゃ床が抜けたりはしない。絶対に。

耳元を掠める風がごうごうと唸っている。どこからどこに落下しているのかも分からなかった。ただ、ほんの少しだけ落下の状況に慣れてきたらしい脳が、視界に映る映像について考えることを許してくれた。


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